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札幌地方裁判所小樽支部 平成12年(ヨ)23号 決定 2000年12月04日

債権者

浅川寛巨

(ほか8名)

右9名代理人弁護士

佐藤哲之

三津橋彬

笹森学

川上有

債務者

共同交通株式会社

右代表者代表取締役

川上登貴松

右代理人弁護士

向井諭

大野慶樹

主文

一  債権者らの申立てを却下する。

二  申立費用は債権者らの負担とする。

理由

第一申立て

債務者は,平成12年9月21日から本案判決確定の日まで債権者らを別紙「平成12年度賃金に関する協定書」所定の隔日勤務(C勤務)に従って就労させなければならない。

第二事案の概要

本件は,債務者に雇傭されて隔日勤務により就労していたタクシー乗務員である債権者らが,債務者が債権者らに対してした平成12年9月21日以降日勤勤務又は夜勤勤務を命ずる業務命令(以下「本件業務命令」という。)は労働協約又は労使慣行に反するものであると主張して,本件業務命令の無効確認訴訟の本案判決確定の日まで債権者らを隔日勤務に従って就労させる旨の仮処分を求めるものである。

一  前提となる事実

1  債務者は,一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,訴外北海道交運事業協同組合(以下「北海道交運事業協同組合」という。)に属している。

2  債権者らは,タクシー乗務員であり,債務者と同様に北海道交運事業協同組合に属する訴外札幌交通株式会社(以下「札幌交通」という。)の小樽営業所に勤務していたが,札幌交通が債務者に対して小樽営業所を営業譲渡したことから債務者の小樽営業所に勤務している者である。債権者らは,札幌交通労働組合の組合員であったが,右営業譲渡に伴って交運従業員労働組合に加入し,平成12年1月ころ,同組合小樽支部(以下「本件組合」という。)を組織した。

3  債権者らは,隔日勤務により就労していたが,債務者は,平成12年8月4日,債権者らに対し,同月21日以降日勤勤務又は夜勤勤務を命ずる業務命令をした。債権者らは,債務者に右業務命令の撤回を求め,債務者は,右業務命令を撤回したが,平成12年9月6日,あらためて同月21日以降日勤勤務又は夜勤勤務を命ずる業務命令(本件業務命令)をした。

二  債権者らの主張

1  被保全権利

(一) 債務者の制定した就業規則は「会社は業務の必要により4週間を平均して1週間の実働時間が48時間を超えない範囲で連続16時間の隔日勤務をさせることがある。」と定めている。

(二) しかし,債権者らの就業時間及び勤務形態は,債務者と本件組合との間で毎年度締結される賃金協定(以下「本件労働協約」という。)により賃金と一体をなすものとして決定されてきた。本件労働協約は,日勤勤務,夜勤勤務及び隔日勤務のいずれの勤務形態で就労するかを債権者らの選択にゆだねているのであって,債務者の業務命令権は,債権者らの同意なくしては行使できないという程度に制約されている。

(三) 札幌交通は,平成6年11月ころ及び平成8年3月ころに小樽営業所の乗務員の勤務形態を変更したが,その際,変更に同意した乗務員のみを対象とした。債務者は,本件業務命令に至るまで小樽営業所の乗務員の勤務形態を変更したことがない。このように,札幌交通及び債務者が乗務員の同意を得ずに勤務形態を変更したことはなかったのであって,小樽営業所においては乗務員の同意なくして勤務形態を変更しない旨の労使慣行が成立していた。

(四) 本件業務命令は,債権者らの同意なくしてその勤務形態を変更するものであり,本件労働協約ないし労使慣行に反するものである。債権者らが長年慣れ親しんできた隔日勤務を突然日勤勤務又は夜勤勤務に変更することは,債権者らの生活や身体のリズムを破壊することを意味するのであって,債権者らの人格権を侵害する点においても違法である。

2  保全の必要性

債権者らは本件業務命令の無効確認訴訟を準備しているが,債権者らが本件業務命令に従うことを拒否した場合には,債権者らは懲戒処分等による新たな不利益を被るおそれがある。また,債権者らが本件業務命令に従った場合には,債権者らは生活や身体のリズムを崩されるなど回復不可能な著しい不利益を被るおそれがある。

三  債務者の主張

1  債権者らの主張1について

同(一)は認める。債務者は,債権者らに対し,業務上の必要により日勤勤務,夜勤勤務及び隔日勤務のいずれの勤務形態で就労するかについて指示する業務命令権を有している。

同(二)は否認ないし争う。本件労働協約は各勤務形態の就業時間と賃金の内容を定めているにすぎないのであって,いずれの勤務形態で就労するかを債権者らの選択にゆだねているわけではない。

同(三)のうち,札幌交通が平成6年11月ころ及び平成8年3月ころに小樽営業所の乗務員の勤務形態を変更したこと,債務者は本件業務命令に至るまで小樽営業所の乗務員の勤務形態を変更したことがないことは認め,その余は否認ないし争う。

同(四)は否認ないし争う。

2  債権者らの主張2は争う。

第三当裁判所の判断

一  債権者らは,本件労働協約は,日勤勤務,夜勤勤務及び隔日勤務のいずれの勤務形態で就労するかを債権者らの選択にゆだねている旨主張する。しかし,(証拠略)(本件労働協約)によれば,本件労働協約は就業時間及び勤務形態並びに賃金について協定したもめにすぎず,いずれの勤務形態で就労するかを選択する権限の所在について協定したものではないことが認められるのであって,債権者らの右主張を採用することはできない。

二  次に,債権者らは,小樽営業所においては乗務員の同意なくして勤務形態を変更しない旨の労使慣行が成立していたと主張する。しかしながら,一般に,就業規則等に基づかない取扱いが労使慣行として労使双方に対する規範性を獲得するためには,少なくとも,当該取扱いが長期間にわたって反復継続して行われてきたことを必要とすると解されるところ,仮に,債権者らが主張するとおり,札幌交通は,平成6年11月ころ及び平成8年3月ころに小樽営業所の乗務員の勤務形態を変更した際,変更に同意した乗務員のみを対象としたこと,債務者は本件業務命令に至るまで小樽営業所の乗務員の勤務形態を変更したことがないことが認められるとしても,右事実のみではいまだ小樽営業所においては乗務員の同意なくして勤務形態を変更しないという取扱いが長期間にわたって反復継続して行われてきたということはできないから,債権者らの主張に係る労使慣行が成立したということはできない。したがって,債権者らの右主張を採用することはできない。

第四結論

以上によれば,債権者らの申立ては失当であるから却下することとし,申立費用の負担について民事保全法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判官 内野俊夫)

別紙 平成12年度賃金に関する協定

1. 勤務体系及び勤務時間

(1) 勤務体系 2.2.2.2.(20日サイクル)

(2) 勤務時間 1か月平均所定労働時間 173時間

1週間平均所定労働時間 40時間

<省略>

2. 賃金<略>

3. 賞与及び燃料手当<略>

4. 実施日 平成12年4月21日

上記協定する。

以上

平成12年 月 日

協定の当事者である労働組合の名称又は労働者の過半数を代表する者の職氏名<略>

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